誕生日当日。いつもと変わらない放課後の練習を終え制服に着替えると、東方は他の部員に祝福を受けた。 「お誕生日おめでとう雅美ちゃん!15歳に見えないけどおめでとう!これ、プレゼント。」 千石から小さい冊子のようなものがいくつか差し出される。 「…千石これ、クーポン…券だよな?」 「いいでしょこれ?ハンバーガー食べ放題!皆で色んなファーストフードの集めたんだから。なぁ壇くん?」 ウンウン、と満足そうに頷きながら、千石は壇を振り返る。 「はいです!お父さんのために頑張りましたよ〜!!」 「食べ放題ってこれ金払うし、そんなに食えないし、そもそも俺が好きなのはハンバーグだし、えーと…。」 後輩に背中から抱きつかれたまま、パラパラとプレゼントをめくる。ご丁寧にミシン目に沿って一枚一枚切り離されたそれは、ホチキスで留められていて、手作りの表紙には店ごとに担当した部員の名前とメッセージが書いてあった。 「……。」 中には期限が切れているものもあって、それでも楽しそうに作ってくれている姿を想像するには容易くて、反応を窺う皆の視線が気恥ずかしくて。 「あぁ、どうもありがとう。大事に使わせてもらうよ。」 東方はぎこちない笑顔で部員を見渡した。 「でもそれ、期間限定だからさ〜、早く使わないとダメだよねー。」 「えー、新渡米先輩、そんなのあるんですか?僕忘れてました。」 しょんぼりと肩を落とす喜多を新渡米が慰めていると、錦織がおずおずと手を挙げた。 「どうした?錦織。」 南が気付いて問い掛けると、錦織は一瞬東方を見てから言いにくそうに答えた。 「…じゃあ皆で食べに行けばいいんじゃないかな?亜久津も誘ってさ。」 それではプレゼントの意図が…と言いかけた錦織の案に、南と室町を除く他の部員達は盛り上がりを見せた。 収拾がつかなくなった事態に、東方はいっそ「皆、俺のおごりだ!今日は無礼講だ!」など景気のいいことを言うべきなのか、酒の席にでも出てきそうな、中学生にあるまじき光景を思い浮かべていた。 いつもはそんなことを調子よく言えるような位置でもなく、どちらかと言わなくとも巻き込まれる身だったが、東方は今日位は中心になるのも悪くないかな、とくすぐったい気分で、それでもやはり、どこか居場所がなかった。 「東方さんこれ、本当のプレゼントです。おめでとうございます。すみません、さすがに生肉を持ってきて焼くわけには行かなかったんで。皆、東方さんの誕生日が純粋に嬉しいんですよ?」 困りながら頭を掻いていると、室町からそっとリボンのかかった包みを差し出される。東方は軽くお辞儀をしてそれを受け取った。 「ありがとう。うーん、それがわかるから何だか、余計に…。」 顎に指を添えながら眉を寄せて考えている相方に、南が近付く。 「誕生日おめでとう。室町の言う通り、皆はただ嬉しいんだぞ。だから今度は、皆がどうじゃなくてさ。純粋に東方はどう思っているのか、伝えればいいんじゃないか?何て言うのかな、あいつらがバカできるのも、こう、どっしりいてくれる人があってのことかなーって。」 彼なりにひとことひとこと言葉を選んでくれる、その心遣いにただ、胸が温かくなった。 南の言葉に背中を押されて、東方は一歩前に出ると、息を吸い込んだ。その行動に気付いた千石達も、向き直る。 「えーと、どうもありがとう。…困ったな、嬉しいって言葉しか思い浮かばない…とにかく、その、ありがとう。」 自分に向けられる、声にならない思いを包み込んでくれる優しさが、少しずつ染みてくる。それを心地よいと思うことに、東方はまた、頭を掻いた。 今度は照れ臭そうに。 |
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