Non Title
クールな東方に、それを求めるのは酷だろう。
なんとなくそんな風に感じていて、南は半ば諦めた気持ちでその背中を見つめていた。
自分ばかりが弱さを見せているような気がして、いや、
踏み込んできてくれない東方が妬ましくて。
ついさらけ出してしまうのは その落ちついた雰囲気と、
矛盾ではあるが 踏み込んでこないとわかる安心感からだ。
少しでも東方もなにか見せてくれればこんな罪悪感も感じないで済むのに。
そこまで思って、またそんな自分のエゴに嫌悪する。

「どうした?」
心配してくれなくてもいいから。
なんて突き放せればいいはずだが、どうしても東方にはそれができない。
突き放したら『あぁ、そうか。すまん』とかなんとか言って、きっと
それ以上構ってくれなくなってしまうような気がしてしまう。
かと言って『そんなこと言わずにどうしたか言え。』と言われるのも、
人によってはウザイはずなのだが。

「あぁ、なんでもない。」

作り笑いは通用しないとわかっていても無理矢理笑顔を見せた。



――――――――



わかりやすい南の表情に いちいち付き合ってられるのは自分だけだという 自負はある。
もしかしたらつっかからなくてもいいのだろうが。
顔に出すのは南の持っている数少ない主張だからと思うと
そのポジションにいる自分に与えられた特権としてそうして
聞き返さずにはいられない。
そうすることで『俺はお前に興味を持っている』と態度で示しておきたかった。
でなければ、南にとっての自分のポジションはきっと薄れてしまうだろうと 思えた。
彼の中にいかにして自分の存在価値を作り出すかということだけが 頭の中にあった。
さりげない風を装って、弱っている時に傍にいてやりたい。
できれば、そうじゃない時にでも。

そして、傍にいて欲しがっているのは自分の方だということは
隠しておく。

作り笑顔に頷いてやる。
「ならいいんだ。」

もっと求めて欲しい 
ただ、なんでもない時にでも。
傍にいて と願って欲しい。





軽く触れた肩。
南はそのまま隣について歩く。
俯いてしまえば顔は見えない。

その顔を上げるために
「雨、降るな・・・・」
オレンジとグレーが混ざったような妙な色の空を見上げてみる。

南は顔を上げて
「あぁ。」
空と東方を見上げた。


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この二人の何気ない、さっぱりしているのに物凄く通じ合っている雰囲気が、私の理想の東南で、今井さんの簡潔な中にも色々なものが含まれている文章で読めて感激しました。
南は攻めなのに書いて下さって嬉しかったです。男前!
今井さんどうもありがとうございました!東方も大好きです!