04/9cm
俺だって決して低いわけでなく、むしろ高い方なのに、と、そこに記された数字を見て、誤魔化すように「おい、オジサン。」と言ったら、とても悲しそうな目が帰ってきて、南は慌ててその肩を叩いた。
「大丈夫だ、おまえの場合は、その顔と頭が原因だから。」と慌てて笑うと、その肩はがっくりとうなだれた。
「なんだよ、冗談が通じない奴。」と言うとひとこと、「おまえこそ。」とだけ返される。
本当は、彼にはつむじを見下ろされるのがムカつくのではなくて、何かを堪えて上を向かれたら、ここから見えないのが不安なだけなんだ、という意味をこめて、「あんま上ばっか見てると、その大きい目が乾燥するぞ。」と言うと、今度は腹を抱えて笑い出す。
今のは冗談じゃなくて、本気なんだけど、とは何だか言えなくて、それでもまだ、落ち込んで猫背が酷くなるよりはいいか、と、南はむくれながらも許してやる。
じゃあせめて、教室の入り口に頭ぶつけたとか、小学生の時既に、子供料金でバスを折りようとしたら止められた、とか、おまえからも笑い話をよこせよな、と思いながら。
一桁の差なのがまだ、唯一の救い。

***

そんなにここから見える景色が気になるのかと、何かにつけて見上げてくるその人を、最初は不思議な気持ちで見ていた。
服もなかなかサイズが合わない、映画館では段差があるのに容赦なく「見えなーい。」の声、東方が得したことなんて、満員電車の中で、人より酸素を多く吸えるぐらいだったから。
今だって、手元にある身体測定の用紙をじっと見たあげく、フォローにならない言葉を送ってくるこの友人は、髪を立ててもまだ俺が高いのが気に食わないのかと、東方は時々その頭をなだめるように撫でていた。
その反撃がこれなのかと、二度目の妙な冗談にあきれながらも、どこかずれた南に、おかしさが込み上げる。
むくれたその横顔、それでも何かを企んでいるように眉毛がぴくりと動いて、その癖を知っているのは自分だけだと思ったら、別にどうでもよくなってくる。
今よりもっと南が小さかったら、表情までなかなか見れないなと思いつつ、その時は目線を合わせればいいだけだと思うと、楽になる。
一桁の差なのは、ちょうどいい。


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