teens2
初めて彼を見た時は、こんな風になるとは思っていなかった。
彼の意識はまっすぐ、実の兄である天才という存在に、憎しみと紙一重で注がれていたのだ。
誰もが彼を「不二周助の弟」という位置付けで見ている。
そんな彼に、いくら「不二裕太」が優れているか持ち上げてみても、所詮、聞く耳を持たないのだ。
だから僕は言ってやった。
「そんなことより」ってね。
あの時の彼の反応ったら。
手にとるようにわかったよ。そこまでは計算通り。
計算外だったのは、この僕が君にうつつをぬかしてしまったという、失態かな。

「観月さん、できました!」
彼は僕が言うことを素直に受け入れる。
そこには痛いぐらい剥き出しになった対抗心があって、それは僕には眩しいぐらいだった。
疎ましい。
妬ましい。
名前も聞きたくない。
裏返せばそれは全部、執着へ繋がっている。
立ちはだかる壁を目の前にして、彼は絶望を覚えたりしないのだろうか。
まだまだ荒削りであるけれど、そこには決して諦めという姿は見えなかった。
勿論悔しさを露にすることは度々。
それでも、言葉は悪いがその負けん気の強さは逆に、僕にとっては扱いやすかった。
「裕太くん、ここまで出来る人は沢山いますよ。どうですか?もっと強くなりたくないですか?」
その時はまだ、僕は大して君に執着していなかったように思う。
僕がここ聖ルドルフへ呼ばれた意味、それは、どこでもできる青春ごっこをするためではないからだ。

勝つことで己の存在意義を見出す。
何も裕太だけではない。
勝たなければ意味がないのだ。
僕だって一緒。

負けることが怖いのは寧ろ僕の方だった。

その貪欲さは時に残酷だ。
今まで自分にも自分のテニスにも自信があったから、自分の集めたデータにも自信があったから。
言うようにできないのは愚かな証拠だと思っていた。
自分の理論が正しいか利用してやろうと思ったのに。
彼は無邪気な笑顔で僕を利用しているのではないだろうか。

彼の中に僕のいる意味はあるのだろうか?


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