03/桜
頭上に綻びた薄紅色のそれが、あの日の別れを思い出させる。
今日ここで、中学に別れを告げる。
  「…桜か。」
立ち止まった柳の視線を追うと、真田はそう呟いた。
「弦一郎、覚えているか?」
微笑む柳に、腕を組んで思考を巡らせる。
「…ああ、そういえば。あの日もこのような木の下で、お前を見送った。 もっと咲き誇っていたが。」
真田は襟元のネクタイを緩めながら、それでも毅然と、真っ直ぐに視線を柳に返すと、一歩を踏み出す。
「あの時はまだ、目を赤く染めて送ってくれた。弦一郎にも可愛げがあったものだ。」
誤魔化すように柳がからかうも、向けられるのはまた、曲がることを許さない、直線。
「まさかあの時は、蓮ニと再会できるとは、思わなかったからな。お前の髪についた花びらが、妙に美しかったのを覚えている。あれから毎年、桜を見てはお前を思い出したものだ。」
「…そうか。」

同じものを見て、同じように美しいと感じた季節は通り過ぎ、それでもまた、巡りあえた事実は、偶然に他ならない。
「弦一郎はやはり、満開の桜が好きなのか?」
何かを確かめるように、柳は真田にゆっくりと歩み寄る。
「そうだな。…あれは別れではなかったからな。」
「ふ、弦一郎らしいな。」
毎年散り行く桜を眺めては、目に見えるそれと反対に、真田への淡い恋心を募らせていた記憶を呼び覚まし、柳はそっと息をはいた。

「これからも、お前と毎年共に見るものだと思えるからな。」
「そうか。」
二度目の溜息は、安堵とそして…。


ホーム メニュー