feeding
まったく、人の気も知らないで。

目の前でのん気に、大して好きでもないケーキをにこにこしながら食べている東方を、南は肩肘を机につきながら睨んだ。

「ん?南もこれ食うのか?ほら…。」
とっくに苺のショートケーキを平らげ、右手のフォークをアルミのパーチにガシガシ突き刺していた南を見て、東方は自分のケーキを丁寧にカットする。
「…そんなに切ったらおまえの分がなくなるだろ?」
切り分けられた幾重にも漆黒の層が重なるそれがなんというのか南はわからなかったが、この際気を引けたことだけで大成功とする。

「いいよ、南が食べてくれればそれで。」
それは東方くん、俺を口説いているんですか?と喉元まで出かかって、缶に入ったお茶を無理矢理流し込んだらむせた。
「大丈夫か?」
不安げにこちらを見ながら背中をさすってくるその腕がとてつもなく憎らしかった南だったが、落ち着いた頃を見計らって先ほどの続きを、何の計算もなく自然にしてくるその腕は、ずっと離したくなかった。

「はい南。あ〜ん?」
「…あ〜ん。」
口の中に運ばれたそれは、苦味の利いた濃厚なチョコレートと芳醇な香りのする、南に言わせれば「大人の味」の一言だ。
「美味いか?ちょっと酒がきいているかもしれないが…。」
ただコクコクと頷き返すのが精一杯の南を目にして、嬉しそうにふわっと、もしかしたらそれはかなりな贔屓目で、ただのしまりのないものなのかもしれないが、優しく微笑む東方を見て、口の中どころか胸焼けまでしそうな甘さを覚えた南は、またむせた。

「ねぇ雅美ちゃん、こっちにも一口くれな〜い?」
横から新渡米の甘ったるい声がして、東方が見ていないのをいいことに、思い切り机の下で上履きを踏んでやった。
「いたっ!何するんだよ〜南ぃー!足踏むなんてさー。」
「こら南、新渡米に謝りなさい。ごめんな新渡米?」
ケーキを切り分けながらそれを新渡米の皿に乗せてやる東方を見て、南は色々と引っ込みがつかなくなる。

「ほら南、ちゃんともう一口やるから、機嫌直せって。」

そう言いながら口元に運ばれては、どんな顔したらいいんだよ?


ホーム メニュー